嬉野温泉大正屋(設計 吉村順三)
19.06/05 [ 日々 ]
先日、佐賀県嬉野温泉にある大正屋に宿泊する体験をしました。この宿の設計は吉村順三さんで、本館の竣工は1973年、吉村さん65才の時のこと。その後も増改築を重ね、吉村さんが他界されてからもお弟子さんが設計を受け継がれたとのこと。
宿の佇まいは何の変哲も無い箱型の建物。この中に吉村順三の世界があるとは想像できず、期待はずれかも。。。と不安がよぎりました。が、そこにはありました。温かなまなざしの数々。
案内されたのは1階の中庭に面した客室「りんどう」。
吉村さんご健在の2期工事に増改築された別棟に位置します。
部屋の中には庭の木々の翠があふれていました。
床の間のある座敷と縁側といった、今でこそ当たり前の客室の構成。
座敷から庭を見た際に縁側に設えられた腰掛けなどが景色の邪魔にならぬよう床のレベルが1段下がっています。
庭との繋がり。窓周りのしつらえ全てがこのために考え抜かれているのが伝わってきます。
建具枠の位置、ガラスのコーナー窓、引き込みの障子。
そして、写真の左手の壁に掛けてあるのは姿見。縁側の右隅には椅子に座って使用する造作の鏡台。窓の障子の後ろにはブラインドボックスがあり、遮光用のブラインドも備えています。
そこで過ごす人の気持ちを何度も反芻して、居心地の良さが追求されています。
吉村さんの温かな人柄に触れる、幸せな時間を過ごすことができました。
また、ロビーのある本館は人工の滝に面しており、1階から地下に水が落ちる仕掛けになっていて、階段室周りには絶えず水の音が聞こえています。
1階ではそれに面して人が腰を下ろすベンチソファーが幾何学的な輪郭に沿って配置されていました。
その滝は最終的には地下の浴場「滝の湯」にたどり着くのですが、そのひさしの形状も幾何学模様で、フランク・ロイド・ライト「落水荘」の影響を感じたのでした。
そう思うと、そこかしこにライトの影響が。。。。
ね?!
地下の「滝の湯」。滝の庭と浴室とを仕切るFIXガラスは曇らないように絶えず天井スリットから温風が吹き付けられています。
こんなに作り込まれているのに陳腐で無い!この不思議な感じ。圧巻でした!
湯船は滝に面して長いが奥行きが狭く、ダイナミックな景色に対して、小さくて愛らしい。
吉村さんがそこにいる!そんな感じがしました。
味わえば味わうほど温かな気持ちで満たされる。そんな建築でした!